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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1197号 決定

抗告人

有限会社青竹庵

右代表者

水田隆

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、抗告の理由は、別紙(一)「抗告の理由」及びその六項で引用する別紙(二)「上申書理由」のとおりである。

二1  抗告の理由第一点(別紙(一)「抗告の理由」一から五まで及び別紙(二)「上申書理由」一、二)について

所論は、要するに、本件抵当権設定時に本件建物の敷地たる土地に存した借地権は既に消滅し、現在の借地権はそれとは発生原因を異にするものであるから、抵当物件の競売に伴つて移転するとされる借地権があるとするには異議があり、このまま競売に付したのは権利者である抗告人(建物所有者)の権利を著るしく害するというのである。

検討するに、借地(建物所有を目的とする賃借地)上の建物に係る抵当権の実行により当該建物が競落され、その代金が納付されると、別段の事由のない限り、建物所有者が有する当該建物所有を目的とする敷地の利用権(借地権)はことさらそれを競売の対象としなくても、建物所有権に付随して競落人に移転するものと解すべきである(土地賃貸人から承諾を得る問題は、別個である。)が、その競落人に移転する敷地の利用権(借地権)は、当該建物を建物として使用し得る価値を与えるものであり、建物と一体として建物の価値をなすものであるから、建物につき強制競売が行われた場合におけると同様に、当該競売(入札を含む。以下同じ。)の時に存在するそれであると解するを相当とする。

本件についてこれをみるに、一件記録によれば、本件建物には抗告人(建物所有者)と浅川浩(上地所有者、賃貸人)との間の昭和五三年一〇月二一日付覚書(抗告人引用の別添第二号)及び昭和五四年四月一二日付土地賃貸借契約書(同第三号)による借地権が現に附着していることが認められ、これは、抗告人所論の本件建物に対する抵当権設定時(当時の建物所有者、北条物産(株))に存在した借地権とは仮に発生原因を異にするとしても、本件建物の競落に付随して競落人に移転すべき対象たり得ることになる。(なお、記録によれば、抗告人は、西郡和夫との間の昭和五三年四月一日付土地賃貸借契約書により、別紙(二)の「上申書理由」四に掲げる土地(ただし、高根九一五―六の土地は除く。)も現に普通建物所有の目的で賃借していることが窺われる。)

したがつて、建物附着借地権の発生原因の観点からした前記抗告理由第一点は、理由がない。

2  抗告の理由第二点(別紙(一)「抗告の理由」六及び別紙(二)「上申書理由」三、四)について

所論は、要するに、本件建物の競落に伴い移転する借地権の対象たる土地の範囲が明確にされておらず、ひいては最低競売価額の評価も妥当性を欠くものとなつているというのである。

検討するに、前示借地上の建物の競売に伴い競落人に移転する敷地の借地権の範囲は、諸般の状況(当該土地の広さ、形状、当該建物の大きさ、形状、位置関係のほか、土地及び建物の用途目的、使用状況等)から敷地として合理的であると認められる限り、競売時に存在するそれの全部にわたるものと解することを相当とする。

そして、この場合、建物が競売に付されても、借地権自体は直接には担保権の対象ではないから、競売裁判所がその存在や範囲を明示することは法律上必要的であるとはされていないし、競売裁判所が有権的にその範囲を確定することもできない。

本件についてこれをみるに、一件記録によると、本件建物の評価人佐藤吉男は、その評価にあたり建物の利用価値に含まれる借地権の価額を加算することとし、その価額を算出することとし、その価額を算出するに当り、面積を抗告人所論のように7577.84平方メートルと見積つたこと、及びこれは前記抗告人と土地所有者浅川浩との間の土地賃借契約書上の借地面積から、前記覚書に記載された借地面積から除くものとされた面積を差引いて得た数字(平方メートルで表示)であることが認められ、また、前記のように抗告人は西郡和夫から別紙(二)の「上申書理由」四に掲げる土地(ただし、高根九一五―六の土地を除く)を普通建物所有の目的で現に賃借していることが窺われるところ、原審競売裁判所は、本件建物を競売に付するにあたり、右西郡からの借地を含め、ことさら建物所有権と共に移転する借地権の対象となる土地の範囲を示していない。

しかし、右評価人が見積つた面積は、競売物件の最低競売価額を評価するにあたり、土地賃貸人浅川浩からの借地面積を所与の資料から合理的に算出したものであつて、相当と認められ(もつとも、右面積は、右評価額を見積る過程における技術上の数字であつて、右建物競落に件い移転する借地面積を保証したり限定したりするものではない。)、この場合、前記西郡和夫からの借地の面積は右評価額算出上の面積の数字には加えられていないが、西郡からの借地は本件建物の敷地として、その借地権が競落人に移転するとみるのを確実視するにはやや問題があるし、浅川からの借地の範囲に比して著しく面積が少ないことでもあるから、その面積が右技術上の数字に算入されていないからといつて、本件評価額を最低競売価額(競買又は入札の価額を下支えするものであつて、競落価額の適正値として設定されるものではない。)とするのを違法たらしめる程のものとは認められない。また、西郡からの借地部分の借地権が競落により移転するものの中に含まれないと断定するものではないが、右西郡からの借地の点も含めて、原審競売裁判所が借地権の目的たる土地の範囲を示していない点は、前示のように競売裁判所は競売に先立ちその点を明らかにする義務はないので、この点を競落を許さない理由とすることはできない。

よつて、本件競落に伴い競落人に移転することになるべき借地権の範囲に関する前記抗告理由第二点も、結局理由がないことに帰する。

3  その他記録を精査しても、原決定を取消すべき違法の点は発見できない。

よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(小河八十次 内田恒久 野田宏)

(別紙(一))抗告の理由

一、抗告人は本件不動産の建物所有者・借地権者である。

二、本物件は借地上の建物の競売であるが同建物に抵当権者に帰属する借地権は既に滅失していると解釈する。

三、抗告人は、当事者外地主浅川浩と昭和五十三年十月二十一日借地契約を締結したものである。

債権者(株)平和相互銀行は地主との承諾書を根拠とした抵当権の実行であると思料されるが借地契約は地主の言によれば債務者との間の昭和五十一年七月一日付土地賃貸契約書は同契約書第五条(別添証第一号)に記載の賃料不払いにより既に地主と賃借人との間の信頼関係が著るしく破壊され契約を継続するに足る根拠を失つたこと抵当権者も亦同じ、よつて債務者と地主間の借地契約は既に解除されてあつた。

四、従つて抗告人は右の理由を根拠として新借地人として別添第二号及び第三号証の如く契約を締結し今月に及んでいる次第である。

五、しかるに本件競売事件は抵当権者の借地権をあいまいな状態でこれを認め競売に付したのは一方の権利者である抗告人の権利を著るしく阻害するものでありもとより抗告人は借地権の存在を確認する為の訴を行い明らかにする所存である。

六、ところで本件不動産の最低競売価格(第三号物件)は金参阡四百拾八万八阡円也とされているがこの価格の中には先に千葉地方裁判所宛上申した記載理由で明らかな様に妥当性に欠ける部分があり更に借地権の有無が価格鑑定評価を大きく左右する問題であることは明白である根拠あいまいのまま競売に付されたことになる。

競買人は権利の充分に確立されないまま取得したことにもなりいづれの場合も適法妥当な競売とは言い難い面がある様に思料されるのでこの点も合わせて審理されることを求める次第です。

七、よつて抗告人は申立趣旨の如く本件競売事件の原決定の取消し更に相当の裁判を求める次第である。

(別紙(二))上申書理由

一、本物件は借地上の建物の競売であるが同建物に抵当権者に帰属する借地権が存するか否かについて疑義がある。

二、同借地権は評価書に資料添付された通り二通の借地契約が成されて居ることになるが申立人(有)青竹庵は債務者北条物産の借地契約が契約書第五条第一項の解除要件に基づき既に解除されているものと解し当事者外地主浅川浩と昭和五十三年十月二十一日契約を締結し更に本契約書を昭和五十四年四月十二日代表取締役の変更を機に再締結したものである。

三、契約面積八千弐百五拾平方メートルに対し評価面積七千五百七拾七、八四平方メートルとした根拠が明らかでない。

四、契約外借地高根町九一五―六及び同九一五―一三二、同九一五―四、以上三筆が同敷地内に一体として別に借地しているがこれらの点についていかなる配慮が成されているものであるかも明らかでない。

五、よつて評価の妥当性に疑義があるので再鑑定を申します。

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